Kazumi流

日本人は「孤独」を誤解している!
心を活性化する「積極的孤独」のススメ朝日新聞WEB「DANRO」2018年6月22日掲載

あなたは「孤独」という言葉に、どんなイメージを抱きますか? ソロ飯やソロ旅行などがじわりと浸透してきた一方で、まだまだ「寂しい」「暗い」とマイナスの印象を抱く人も多いのでは。果たして、孤独は人間の敵なのか、味方なのか……。

孤独の持つ積極的な側面に注目し、古今東西の文献をひもとくなど研究を続けてきた「ソリテュード研究家」の津田恵子さんにお話を聞いてきました。

――テレビドラマ『孤独のグルメ』が人気を博し、「ソロ活」や「おひとりさま」をテーマにしたガイド本も多数出版されます。最近、孤独のイメージもポジティブに変わってきた気がしますが、「一人は寂しくて嫌だ」と感じる人もまだまだ多いようです。

津田:それは、孤独の持つ二つの側面をごっちゃにしているから、そう見えるのではないでしょうか。私は、自ら選び取った積極的なひとりの時間を「積極的孤独」、社会との関係性を断ち切られた状況に置かれることを「消極的孤独」と呼んで区別しています。「消極的孤独」は寂しく、つらいですが、「積極的孤独」は心に余白をつくり出し、生きることに光と自信を与える。正反対の作用を持っているんです。

「孤独」について研究している津田恵子さん

――つまり、孤独を恐れる気持ちが沸いてくるのは、「消極的孤独」の側面に注目しているからなんですね。

津田:ええ。日本人の意識には「消極的孤独」の側面ばかりが刷り込まれていて、「ひとりが好きだ」というと、「協調性がない暗い人」と見られてしまう傾向がありました。日本では、「孤独」と一緒くたに表現されてしまうけれど、英語では、「積極的孤独」をソリテュード(solitude)、「消極的孤独」をロンリネス(loneliness)と呼んで、別の意味を持たせています。たとえば今年、イギリスで孤立した高齢者などの問題を扱う「孤独担当大臣」が新設されて話題になりましたが、これは英語では「Minister for Loneliness」。本来は「孤立問題担当大臣」とでも訳すべきだったと思います。

――「積極的孤独」とは、どんなものですか。

津田:ひとりでご飯を食べたり旅行に行ったりすることも含まれるでしょうが、もっと単純に、ひとりで湯船につかっているときや、自然に身をゆだねているとき、人混みから離れて本を読んでいる時間などもそうです。ひとりの時間というのは、酸素と同じように、脳も体も欲しているもの。気持ちがリラックスして魂が解放され、内なる自分と対話することで創造性が沸いてくる。画家のパブロ・ピカソも、「大いなるソリテュードなしでは、重要な作品はできない」という言葉を残しています。孤独には、大きなパワーが隠されているんです。

――最近は、「おひとりさま」や「ソロ活」がブームのようになっていますね。津田さんは総合商社や外資系コンサルティング会社などを経験された後に独立して、人間行動学や日米欧の文献の研究からまとめた理論を『孤独力』(講談社、2003年)などの著書にまとめられています。かなり早くから孤独に注目されていたんですね。

津田:私は、ブームが来ることはかなり以前から確信していました。私自身、会社の人間関係に疲弊して体調を崩した時に「積極的孤独」の力に救われたことが学問的な研究を始めたきっかけですし、ひとりの時間をつくることで勇気やアイディアが沸いてくることは身をもって体験していましたから。最近は、特に女性の中に「孤独」を積極的にとらえる考え方が広まってきたと感じます。ここ数年、私も孤独についてのワークショップなどを頼まれることが増えましたが、依頼は30〜40代の女性が多いです。本来は、組織の中でがんじがらめになって疲弊している男性にこそ、目覚めてほしいのですが。

津田さんがつくったトランプ。古今東西の賢人による「ソリテュード」に関しての名言が収録されている

「心のインスタ映え」を気にしたほうがいい

――ブームの背景には、何があるんでしょう。

津田:ここ数年、FacebookやLINEなど、コミュニケーション手段が急速に発達したことの揺り戻しが来ているのかもしれません。多くの人がテクノロジーの進化についていけず、疲弊している。先日も新聞の投稿で、LINEを小学校から使っているという12歳の中学生の女の子が、「初めは楽しかったのに、だんだん読むだけで精いっぱいになった」と書いていました。彼女はLINEに登録された「おともだち」が間違って消えてしまったら「ホッとした」という。物心ついたころからSNSがあった若い世代がここまで疲弊しているんだから、これから「孤独」を求める人はもっと増えていくと思いますよ。

――ワークショップに来る女性は、どんな人たちなんですか。

津田:美人で、仕事にバリバリ取り組み、女磨きにも余念がなく、女子会もする。いわゆる「リア充」的なタイプですね。だから「ソロ飯」とかにも行っちゃうんですが、話を聞いてみると、実は、内面は不安になっているんですね。流行に乗っているだけで、ひとり焼き肉に行ったら「ソロライフを楽しんでいます」とSNSに載せて、「いいね」をもらう。本人たちも「何かが違う」とわかっているけれど、何が足りないのかわからない。でも、立ち止まるのが怖くて、人に相談することもできない。

愛犬の凜ちゃん。コンパニオン・アニマルと向き合う時間も「積極的孤独」を感じるチャンスだという

――どうすれば、不安から解放されるんでしょう。

津田:少し、立ち止まって自分の心の声に耳を澄ますということだと思います。インスタ映えを気にする前に「心のインスタ映え」してますか、と。ひとりでご飯を食べて楽しかったなら、その気持ちを肌感覚で記憶してほしい。そうするうちに、「積極的孤独」のスイッチが入る感覚に気づく瞬間があるはずです。「積極的孤独」のスイッチは心の強い人だけではなく、誰もが持っている。日本には武道や茶道などの「道」や、仏教の「禅」の伝統もありますが、これらもまさに「積極的孤独」。日本人には孤独とうまくつきあってきた歴史があるのです。

――なんだか僕も「積極的孤独」を実践したくなってきました。何から始めたらいいですかね。

津田:一番おすすめなのは瞑想です。なにも座禅会やマインドフルネスのセミナーに行かなくても、30秒間でも1分間でも、目をつぶるだけでいい。SNSや携帯を1日手放すという手もありますが、それが仕事の必需品になっている人もいます。かえってストレスになるようなら、やらなくてもいい。要は、「積極的孤独」を感じて心や体が活性化するということが大事なので、手段は人それぞれでいいんです。

<「きものライフスタイルコンサルタント」の肩書も持ち、365日着物で過ごすという津田さん。着物と孤独は一見、つながりませんが、「着物を着るときは10分以上、鏡の前で自分と対峙する。着物はソリテュード(積極的孤独)なんです」とのこと。孤独とうまくつき合うことで創造的な人生を送る、お手本を見るような思いでした>

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