PHPスペシャル 2002年8月号 掲載
このタイトルだけを見ると、失恋でもしてひとりで生きることに喜びを見出した女性の手記の様である。そんな誤解をさけるために、これは明るく社交的、あるいは八方美人的に組織の中で人と関わってきた人間がその結果、どうなったかという体験談であることを述べておきたい。
2002年当時テレビなどへ出演する折、肩書はまだ「経営コンサルタント」か「人事戦略コンサルタント」であった。もちろん積極的孤独学研究は20年来のライフ・ワークであるのだが、この頃にはソリテュード研究家と名乗るには、まだ時代が早かったのである。まして365日のきもの生活も開始されていなかった。
そう考えると月日は経ち、少しづつではあっても確実に自分軸が太くなっていることをストレスが激減している日々から感じることができる。私にとってソリテュード研究は幸せに生きるためのパスポートなのである。あなたにとっても、そうであることを「ひとりの時間」を意識することで体感して頂ければ、とても幸せである。
津田さんは会社を興す目標の実現のために、様々な職種を経験した。それも意図的に転職を繰り返して、キャリアアップを図ってきた。人脈を広げることにエネルギーを注ぎ込み、実際に縦横無尽なネットワークを広げてきた津田さんは、まさに「人が集まる人」の典型だった。そんな津田さんが、大きな挫折を経験する。その時気づいたのは、人が周りに集まるよりもっと大切なことだったー。
「一般的に大勢でいることは『明るい』、逆にひとりでいることは『暗い』という印象で見られることが多いと思います。もちろん社会に出て、会社からお給料をもらう生活をしていれば、大勢の人の中で果たさなければいけない仕事もあります。でも本当はひとりでいるほうが心地いいと感じているのに、それを『暗いこと』と自己否定し、無理にでも人の輪に入ろうとする場合が多いのではないでしょうか。すると本来の自分を見失い、笑顔の裏はストレスでいっぱいということになってしまうんです」
「私は子どもの頃から、ひとりで過ごすことが好きなタイプでした。しかし幼少期から『人と協調し、誰とでも仲良くできる人になりましょう』という価値観を刷り込まれ、大学を出たときには、『よし、この社会に自分を合わせてやっていこう』と決心したんです。私は何度かの転職経験がありますが、例えばある外資系企業に就職したときは当時の全社員500人の名前を覚えて、全員と食事に行こうと決め、実行しました。すると部署を越えて知人が増え、仕事がしやすくなる。でも、その一方で人に嫌われることが怖くて、相手の顔色を人一倍気にしていました。もともと気配り人間ですからストレスが溜まり、急性腎盂炎で入院するまでになってしまったんです。
すると、病院には会社の知人が続々とお見舞いに来てくれました。私はそのたびに丁寧にお礼状を書き、お見舞いの品を『これ部内で食べてね』と差し上げたりして気を遣っていたんです」
「ある外資系コンサルティング会社で働いていた時、突然会社が日本を撤退することになり、理不尽な解雇通告を受けたんです。当時は人脈を作るために、毎日名刺が百枚もなくなるような仕事をしていましたが、すべてが一瞬でゼロになり、張りつめていた心の糸が突然切れてしまったんです。怖くて電話にも出られないし、人と会う約束をしても土壇場で言い訳をしてキャンセルしてしまう。そんな精神的な『引きこもり』状態が、何年も続きました。」
でもある時、誰もいない自宅で『あー、やっとひとりになれたんだ』という喜びが、ふつふつと沸き上がってくることに気がついたんです。私は周りの人を惹きつけることに心身を傾けてきたのですが、本当の自分はひとりが大好きだった。そんな大切なことを、初めて思い出したんです」
「人づきあいを良くしないと周囲から嫌われると不安になって、自分を押し殺しているから逆に孤独感が強くなるんです。
私は私。無理して人と群れる必要はないと気がついてからは周りに人が集まらなくても平気だし、友達が少なくても平気です。自分を心底愛してくれる人がひとりでもいれば、本当はそれで十分幸せなんですよね。
そこまで突き詰めて考えれば、逆に人をもっと好きになれる。自分の内なる声に耳を傾けるためにも、ひとりの時間を積極的に持つことが大切。孤独の時間(ドリテュード・タイム)は、創造的で豊かな、かけがえのない時間なのです」