日経WOMAN 2006年9月掲載
この取材では「孤独」のもつ二面性を実に深く理解し、それを図として見せたところに編集者の聡明さをみた。幸い、取材ではいつも多くの方々に共感を頂く。しかしこれを言葉であらわすのは意外と難しいようである。ロンリネスを孤独感として、ソリテュード(積極的孤独)へと変容していくところまで触れて頂いた内容には感謝している。精神分析家であるD.W.ウィニコットの論文にある「ひとりでいられる能力 Capacity to be alone」を、「ソリテュードとは寂しさを克服する精神力ではなく人間に備わった能力である」と表現した理由は、この概念が一部の楽観主義者や強い心の持ち主だけが享受できるものではないということを伝えたかったからである。
小紋の単衣(ひとえ):ピンクの薄墨を縦方向に流したような柄。自分で仕立てたお気にいりの1枚
「何もせず、一杯の熱い紅茶を飲むひとときが何より大切。自分と周囲の人たちについて、仕事について、いろんなことをひたすら考える」(36歳・医療・事務)、「ひとり、カラーアナリストの資格の試験勉強をしていると無心になってすっきり」(37歳・公務員・事務)
読者アンケートによると、39.4%の人がハッピーエイジングな女性のイメージとして「ひとりの時間を楽しめる孤独力があること」を挙げている。
では、多くの人がハッピーエイジングの素と答える「孤独力」の正体とは?
創造学園大学客員教授の津田和壽澄さんは「孤独力」を研究し、「寂しさを克服する精神力ではなく、人間に備わった能力である」と説明している。
「もし自分がその能力を活用していないいな、と思ったらそれを活性化させていけばいいだけ。そう考えると、ひとりが苦手と思っている人もぐっと気が楽になりませんか」(津田さん)
体の機能は年齢を重ねるごとに衰えることが多いが「孤独力は、一生をかけて発達させていくことができる力です」とも付け加える。
さらに津田さんは「孤独感と孤独力の違いをハッキリと認識することが、孤独力を目覚めさせる第一歩」とアドバイスする。
下図にその理論を簡単にまとめた。「孤独」には2つの側面がり、津田さんはそれらをロンリネス(消極的孤独)と、ソリテュード(積極鉄器孤独)と名付けている。
ロンリネスは、ひとりぼっちで寂しいという、いわゆる「孤独感」を表す。対するソリテュードは、ひとりでいることで、自由や幸福感を生み出す「自発的な孤独」である。
2つの「孤独」はいつも表裏一体。「私はひとりでも寂しくないわ、と心のありようをトレーニングするのではなく、2つの存在を素直に認めて受け入れること。それが“成熟する”ということなんです」(津田さん)
「大切なのは“寂しくなんかない”と肩に力を入れることではないんです。寂しく感じる気持ちを見つめてそれを“発酵”させる時間を持つこと」と津田さんは解説する。ロンリネスを完全に払拭することは不可能。以下にまとめた孤独力アップのためのヒントを取り入れて、ソリテュードの割合を少しずつ大きくしていくことが、成熟への近道だ
では、「孤独力」を使って「ひとりを楽しむこと」はどんな効用を及ぼすのだろうか。
「ひとりを楽しむ」をテーマにしたサイト「eine(アイン)」編集長の葉石かおりさんは「20〜30代の働く女性はいろんな顔を使い分けている」と話す。「仕事の顔のほか、あるときは妻の顔、あるときは娘の顔、と相手に合わせて演じ分けることが必要なのです」(葉石さん)
周囲に求められる役割を使い分け、忙しく働くうちに現状の自分と本来の軸や、理想とのブレを感じることも多い。
そんな毎日の中で、「ひとりで考える時間や、自分の目標に向かって邁進する時間は、そのブレを軌道修正し、決断力、集中力をアップする基調な時間となります」(葉石さん)
実際にウーマン読者からも「ひとり時間のパワーを実感した」という声が多く聞かれた。
アキコさん(仮名・31歳・メーカー・企画)は大きな企画を任されたときほど、ひとりの時間を意識的に持つようにしている。自分の仕事に対する姿勢や業務内容を客観的にとらえ、反省することによって、より効果的に動けるようになると実感した。
「会社の人たちの目にも自分の積極的な変化が分かるようで、上司から以前より高い評価をもらえるようになりました」と話す。
ミサキさん(仮名・30歳・住宅・設計)は4年間、働きながら資格試験の勉強をしていた。週末はいつも学校に通い、アフター5も勉強に充てる毎日。
同僚の誘いを断り、机に向かう時間は、いつもひとりだったが「寂しさを感じることはなく、アフター5を漫然と過ごしていたときよりも、自分の可能性が広がりました」
「ひとりを楽しむことは、人生の選択肢を広げること」と2人の識者は口を揃える。
津田さんは「生きていればうまくいかないこともあって、寂しいと泣く夜があっていい。その積み重ねで他人の痛みが理解できるようになり、寂しい自分を認めて、深みを増すことができる。そうすれば、周囲の人とのコミュニケーションの質はぐっと深まります」とアドバイス。
一方、葉石さんは「孤独力をアップすることで、新しいフィールドにひとりで踏み出していける。そこで新しいコミュニケーションが生まれる」と言う。
ミナさん(仮名・36歳・医療・事務)は、アフター5にひとりでヨガ教室に通い始めた。「最初は主に先生と会話をしていました。でも何度か通ううちに、それほど親密にならないとしても、そこで友達が作りたくなって…。周囲の人とヨガの話題から、スムーズに話を進めることができました」
興味のある分野で、ひとり新しい人脈の輪に飛び込むことで、「コミュニケーション能力が鍛えられたと感じますね」。
下に日常生活の中で「孤独力」をアップする5つのヒントをまとめた。孤独の性質を理解して、ひとり時間を積極的に持つことで、成熟したハッピーな女性を目指したい。