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群れることへの違和感

小一教育技術 2007年6月掲載

【取材こぼれ話】

小一教育技術 2007年6月号 表紙

この月刊誌は小学校一年生を担当する教師によって主に購読されているものである。その内容は、具体的な指導法や、一年生が一年間に覚える漢字など、初めて読む私にとっては興味のつきない内容で構成されている。

そんな『小一教育技術6月号』で、ソリテュードの取材をうけたことは大変うれしいと同時に「時代の要請」であることを実感した。

以下のインタビューの中で伝えたかったのは「統合した人格になるために保護者や教育者の方がひとりの時間をもつことの大切さを認め、まずそれを体験して頂きたいですね。ひとりの時間という言葉を頭の隅においておくだけで異なる視点をもてると思います」ということである。

かつて水戸の幼稚園の招きで、母親達へ講演する機会があった。そこでは、子どもに対しては「ひとりでも良いんだよ」、保護者には「そんな子どもを見守ってあげて」という考えを言葉にしたかった。その後の懇親会で「ひとり遊びさせることへの不安や迷いが払拭された」という保護者の方のコメントをうかがい、ほっとした自分がいた。

「ひとりでも良いんだよ」そう認め励ますことは、未だ私の中にいて、当時それを拒否され傷ついた小さな女の子へエールを送っているのかもしれないと、ふと思うことがある。

決着をつけようと急がない

着物姿で車にも自転車にも乗るという津田和壽澄さんは、朗らかでアクティブである。群れるのが嫌いだった経験から培った、ソリテュードという考え方についてうかがった。

一日一度は着物を着て、着物のライフスタイルについて提案もしている津田和壽澄さんは、ひとりの時間をもつこと、孤独であることの積極的な意味について伝えることをライフワークとしている。

かつて、住友商事やメリルリンチ証券などの日米の有名企業で、国際的に活躍してきた津田さんは、ひとりの時間の有効性をソリテュード(積極的孤独)と呼んでいる。ソリテュードについて幼いながら自覚し出したのは幼稚園時代だ。
「みんなでお遊戯しましょう」「ご本を読んであげましょう」「よくかんで食べましょう」などと、みんなで同時に何かをすることや一つひとつ指示されることに対して、「なぜ、みんなと一緒にしなければならないのかな」と考える子どもだった。

「私は小さいときからひとりが好きでした。積極的な意味で好きというより、人と一緒にいることにとても違和感があったし、苦痛になることがありました。小学校一年生くらいのときの、そのつらさ加減というのは明確に覚えています」

小学校になれば、みんなと一緒に集まったり、お遊戯をすることから解放されるんだと、楽しみにしていたのだそうだ。

「だから、幼稚園のときはずっと我慢していて、いい子にしてたんです(笑)。臆病な子どもでもありましたから、反抗する術もなかったんですね。なんとかやりすごしていたのに、小学校も幼稚園と何ら変わりませんでした。

最初はなんとなく違和感がありましたが、協調性がないと思われてはいけないとわかっていました。苦痛だったのは、違和感を押し殺すことだったんです」

おとなしくて手も挙げられないけれど、学校は楽しかった。友達はいたし、自分の意見ももっていた。雪が降ったらみんなで雪合戦をするよりも、本当は雪を眺めていたいと思ったが、「協調しなければ」と思い込んで、雪合戦に参加するような子どもだった。

中学生、高校生のころの内に沈潜する反抗期をへて、大学卒業後は大手商社に勤務した。

「大企業ではやはりみんなと群れて、一緒になることを要求されたんですよね。それならば、私は誰よりもにこやかで協調性のある人になろうという、自分の本質とは逆の目標を立てたのです。

ですから他人からは社交的な人だと思われていました。そういう面もありましたが、それを目的化して達成しようと走っていました。一生懸命にがんばることによって仕事もおもしろくなったし、友達も増えて上司からも評価されました。20代をそのように忙しく過ごして、30代になったとき、体の悲鳴という形でツケが回ってきました。

幼稚園のときから感じていた、“ひとりの時間を大切にすること”を、それまでずっと封じ込めていたからかもしれません」

ソリテュード(積極的孤独)の効用

様々な体験から「ひとりの時間」をもつことの大切さに気づいた津田さんは、それをソリテュード(積極的孤独)と名づけ、孤独の効用について大学院で研究するようになった。

「高校生や大学生のときにきちんと意味づけを考えて、“ソリテュードというひとりの時間をもつのはいいことだよ、人と違っていいんだよ”と誰かが行ってくれたり、何かの本に書いてあったなら、とても自分に自身がついて安心できたと思うんです。

積極的孤独というものを生き方に取り入れることによって、自分がどれほど楽になったかということを再確認できたんですね。そして、なぜ昔、そういうことを誰も言ってくれなかったのかという思いがあったので、本や論文をかくようになったんです」

人は誰でも多かれ少なかれ、みんなと違っている自分やひとりでいたいと感じた経験があったはずなのに、大人になってから子どもを見つめるとき、「みんなと一緒に遊ばせなければ」「ひとりきりというのは心配」とつい考えてしまう。ひとりだけ教室を抜け出して砂場で遊んでいた経験があっても、「子どもは元気いっぱい皆と仲良く」といった期待があることに気づくこともある。

津田さんは言う。

「集団の中で、“ひとりでいること”が否定されがちなのは、みんながなんとなくわかっている、“孤独の積極的な意味”を表す言葉がなかったのだと思います。英語では、ロンリネスとソリテュードに分けて表現しているのに、日本語の孤独という言葉には、ロンリネスという一部の意味しかありません。正確に言えば孤独と孤独感は異なるのですが、それが日本では一緒になってしまっています。

日本ではあまりにも孤独感のほうにフォーカスが当たり過ぎているので、私は広報担当として、ソリテュードという言葉を与えて普及していきたいと考え活動しています。

ひとりでいることによって勇気を得たり、自分らしさを取り戻したり、芸術性を生み出すといった様々な効用があるのですが、普通は“ひとりでいたらなんとなくそうなった”で済まされてしまう。ひとりでいるということは本来“能力”なんですが、そういう考え方はあまり知られていないのです」

津田さんは子どもたちにこそ、ひとりの時間の大切さを伝えたいと語る。

「ドナルド・ウィニコットは、1957年に発表した『一人でいられる能力』という論文で、人間はひとりでいられる能力があって発達していくんだということをいっています。ジョン・ボウルビィの愛着理論でも、まずは自分が揺るぎない愛情をもらった記憶があって、そこから世間や社会という冒険、アドベンチャーに出ていくと説明しています。

高度経済成長時代には、個の力が集団に組み入れられ、ひとりの時間は物質に換算されるようになりました。“私にはひとりの時間があったから元気になれた”ということがわかってしまうと、仕組みの中の一員として一日に十何時間も働いていられなくなるから、という理由もあったのでしょう。

ひとりの時間が大切だと子どもに伝えるのは大人の義務だと思っています。自分をしっかり成熟させるものが必要なのです。そこの部分を大人がしっかり理解してあげないといけないのではないでしょうか。ひとりの時間が好きのは、孤独好きや人間嫌いということではありません。ひとりの時間の中で「ほっ」とする、やすらぐ心地良さというのはソリテュードの第一段階に過ぎません。その奥には自分を取り戻したりエネルギーがわき上がったりして、人をもっと好きになるメカニズムがあります。

積極的孤独を取り入れることによって、すべてが解決するわけではないけれど、一つの生き方として提案したいと考えています。インプットなしでアウトプットはあり得ません。もちろん、子どもがひとりになったら誰でもピカソのようになるというわけではありませんが(笑)」

ひとりの時間を意識すること

大人たちに次のように提案する。

「統合した人格になるために、保護者や教育者の方がひとりの時間をもつことの大切さを認め、まずそれを体験していただきたいですね。ひとりの時間という言葉を頭の隅に置いておくだけで、異なる視点がもてると思います。

ひとりでいられる能力はもともとみんなもっているものなので、ちょっと意識をそちらに向ければいいだけなのです。特別な努力をしなくてもいい。変にじたばたしてしまうとひとりの余白の時間がうまく発酵できず、おいしいチーズになるところが青かびになるかもしれません。肩の力を抜いて何かに任せることは難しいものですが、チーズやワインが発酵するように、ひとりの時間が人間を成熟させるのだと信じていただきたいですね。洗面所での1人の時間が3分あるならそれを5分にする、電車の移動時間をひとりの時間として意識して確保するということでいいと思うんです」

集団が大切なのはいうまでもない。ただそれを重視しすぎて、一人の時間の大切さを見失ってはいけない。そのことを少し意識するだけでもとらえ方の幅が広がり、子どもたちや自分自身の“自分らしさ”をより発揮しやすくなるといえるだろう。


by @kazumiryu

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