「悲しみぬく事そのものに癒す力がある」～あるソリテュード考～

魂はそれぞれの居場所を選び取る
〔ラム・ダス〕
［クリックするとカードがめくれます］

3月11日から半年が経つ今、復興への様々な取り組みも新たな段階へ向かっています。
そのような中、心の変化にも専門家は注目しています。

大きな困難に直面した直後、人は「まさか！」と茫然自失し、その後「自分だけではないのだからがんばろう」という高揚感を体験します。その後、人によっては数ヶ月を経てやっと心の悲しみを表にだすことができるようなります。大切な人を失った後「月日とともに、寂しさがつのる」、「やっと泣けるようになった」というのもそのような変化です。
それは真の心の浄化や修復へのプロセスですが、そうスムースに進まない場合もあります。
被災地では喪失感から無気力になる、恐怖心を今更ながら強く感じるようになりカウンセラーのドアをたたく人も増えているとのこと。今更ながらに心のケアの重要性とその方法について考えさえられます。

混乱のまっただ中で静かに居ることは贅沢なことである
〔ヴァージニア・ウルフ〕
［クリックするとカードがめくれます］

では、私達はそのような友へどのような態度で接し、内面の平穏を見つけていくのがよいのでしょうか。
ひとりの時間を大切にし、ソリテュード（積極的孤独）を見事に実践したエリザベス・キューブラー・ロス博士の『永遠の別れ』にはヒントが隠されているようです。
（以下本文の抜粋、背景：双子の兄ドゥエインをがんで失ったワンダは一ヶ月経ってもパジャマ姿のまま身も世も無く泣いていた。その彼女を励まそうとした周囲の態度と解決への一考）

　ワンダは涙をためた目で友人をみつけ、こういった。
「ショッピングセンターへ行くことが、どうしてそんなに強いことなの？ゲイル、じゃぁ、きくけど、わたしのそばにすわって悲しみをともにしてくる強さがあなたにはあるの？」
　ワンダには、普通の人なら言いたくてもいえないことを言うだけの強さがあった。
悲嘆にくれる友人を慰めるために、あるいは自分自身の苦痛を回避するために、ショッピングや釣りに誘う人はいくらでもいる。そのほとんどは内心で「そばにすわって悲しみを共にすること以外」なら何でもいいと感じているのである。
　しかし、癒しは悲嘆が十分に味わいつくされて初めて起こるものなのだ。悲嘆から脱出するための唯一の方法は悲嘆を体験することであり、その体験を先のばしにすることはできても、省略することはできない。先のばしにすることは抑制した悲しみとともに生きることであり、その抑制によって苦痛が倍増することもある。
　苦痛や悲しみに襲われたときには、ワンダが試みたようにすることもひとつの方法だ。苦痛や悲しみを胸にだいて、じっと座っているという方法である。悲しみを感じたら悲しみに身をまかせればいい。怒りや絶望にたいしても同じだ。まる一日泣きとおしたいと感じたら、そうすればいい。ただし、苦痛を抑圧することと、まだ熟していないなまの感情をむりやり表出しようとすることは避けたほうがいい。目的はあくまでも、苦痛を感じたあとにくる開放感を味わうことにあるのだから。
　悲嘆の感情に圧倒されたとき、本能的にそれに抵抗しようとする傾向には注意が必要だ。苦痛に抵抗しても苦痛を増加させる結果しか生まないからだ。苦痛の中に身を沈め、その苦痛がゆったりとしたものに変わるを感じてほしい。自分を洗い流す苦痛に身をゆだね、心身に力が蘇ってくるのを感じるだ。
　悲嘆に自分を明け渡した時、自分が思ってもみなかったほどつよくなっていると気づくことがある。自分を苦しめている苦痛の中心部には平安があり、意識の対象を外の世界から転じて苦痛の中心部にある平安にむけさえすれば、思ったよいりもずっと早く苦痛から抜け出す事ができる。

まったく自分ひとりだけの場所が心の中にある…
〔パール・バック〕
［クリックするとカードがめくれます］

この本の共著者であるD.ケスラー氏はロス博士がもっとも信頼していた弟子であり、グリーフ（悲嘆）・カウンセリングの専門家であるが、「悲しみぬくことそのものに癒す力がある」と二人とも指摘している。
悲しみの体験を強さとやさしさに昇華させていくには、負の沈殿物を発酵させる「ひとりの時間」が有用だと考えます。

by @kazumiryu

閉じる

▲ページトップへ