「いい女ほどケンカがうまい」というテーマで取材を受けたとき、まっさきに頭に浮かんだのは「余裕」というキーワード。
勝ち組、負け組などという言葉がでてきた時代、勝つ事の意味をしっかり考えることが本当に「勝つ」ことだと考えたのです。つまり、他者がどう考えようとも自分にとっての「譲れない一線」を守ることこそが結果に満足することに繋がるのではないでしょうか。
その為には「俯瞰すること」と「心の糊代を広く持つこと」が必要と考えました。そしてそう在るためには常日頃の「ひとりの時間」の摂取量が多いのことが肝要なのです。
東大の上野千鶴子教授は2006年のこの取材で「相手を弄ぶ」と表現していますが、その根底には通じるところがあります。奇しくも、その上野氏が2007年に出版した『おひとりさまの老後』p131で拙著『もう、「ひとり」は怖くない』を引用し「ソリテュード」と「ロンリネス」を区別することを賛同しているのには驚いた次第でした。
外資系企業に勤めていた頃、こういうことがありました。派手系美人のAさんは何事も目立つ存在。営業成績も抜群です。ところがある時、仕事の成功を妬んだ男性が「女の色気を利用して」と吹聴し、噂は尾ひれがついて瞬く間に広がりました。Aさんは、興奮のままやっきになって噂を否定してまわりました。
ところが噂は静まるどころか当事者がでてきたことでさらにあおられ、以後3ヶ月ほど彼女は噂にさらされ苦しみました。彼女は二項対立で自分が「シロ」だから相手が「クロ」であると決着をつけようと性急にことを進め、相手の思う壷にはまったのです。もしあの時、一歩客観的になり、“その噂で何を得て何を失うのか”と考えられたなら、その状況を逆手にとることも出来たのではないでしょうか。心の平安をケンカでの として、事実無根であっても多少の注目はがまんし無視する、という戦術がとれたかもしれません。そうすれば一週間程度で、周囲はあきたのではないでしょうか。
また、ある大手商社では、女性が頭一つ抜きんでた仕事ぶりの同胞女性社員をいじめるということがありました。ランチに誘わない、会議時間を伝えない等、男性社員や上司に知られないよう巧妙に日々細々とつまはじきです。そこで、彼女はケンカを受けてたち、攻撃にでました。会議などでは自ら雑用を勝ってで、“彼女なくては”というふうに必要性を醸成していき、ランチでは「あそこがオープンしたから行ってみましょう」と自ら誘いかけ、関係の緩和を図りました。
これらの例と結果は単純図式化していますが、二項対立だけでは真の勝利は手に入らないという例だと思います。
私は元来、「最少努力で最大効果」を願う無精者なので、まず私にとって「勝つ」意味を考えます。それにはいろいろあります。
1)意見を通したという制服・達成感
2)相手を立てた「貸し」アピール
3)譲歩しつつ妥協点を探りだす交渉術実戦の場
4)信念とは異なっても出世の手段として勝つ
みなさんは「ケンカ」に勝つことに何を望んでいるのでしょう。「知らない間に」、「望まないのに」ケンカに巻きこまれたということもあるでしょう。また、ケンカとは気づかずに結果的に勝っていることもあるでしょう。ケンカとはそれを俯瞰する自分の目が加わって初めて様々な「勝ち」の形が生まれるのです。
人間関係とは良くも悪くも緊張関係でできています。そうであれば、その緊張関係が複雑化した時に、それを客観的にみる目をもってみてはどうでしょうか。
ちょっと視点を変えるだけでよいのです。
東大の上野千鶴子教授は、ケンカに勝つには「相手を弄ぶこと」と述べています。そこには余裕のある客観性が必要なのです。そのためには、オフィスでもほんの少しだけ「ひとりの時間」を作ってください。洗面所でも屋上でもぼーっとする時間に、言葉にならない感情や行動にならない何かが必ず発酵していきます。例えばその結果「わたしは気が弱いから」「面倒くさいから」「相手がかわいそうだから」ということで、直接意見を戦わせないということであれば、それがあなたにとっての「ケンカに勝つ」という意味なのです。
ケンカがうまい女はストレス・フリー。見方を少し揺さぶるだけでしなやかなケンカを楽しめます。