宝島 2004年3月号掲載
今週から5週間にわたり「孤独力」の研究を
以下のテーマでお送りします。
『宝島』はサラリーマンを対象としていますが、ソリテュードという概念はひとつのライフ・スタイルとして男女年齢を問わず有用なものです。ぜひ一度「孤独力チェック・テスト」をお試しください。
A仕事がたまっている時でも 基本は職場の仲間と連れ立って食べにいく |
B仕事の忙しさや食べたいものに合わせて 基本はひとりで食べに行く |
---|
Aと答えた人は、人間関係を重視しており、きっと同僚や上司ともなんとかうまくやっているだろう。
Bと答えた人は、社内の人からは「協調性のない人」と思われているかもしれない。
あなたは、どちらだろうか?ある外資系企業の社長は、「ランチをひとりで食べていても不安にならなければ“外資適性”がある」と語る。
外資適性とは、平たく言うと「自律した人」「精神的にタフな人」を指す。成果主義の台頭もあって、いま求められているのはこのタイプだ。実は、そんな人になるヒントが「孤独力』にある。といっても、孤高のビジネスマンになれというわけではない。孤独に強くなったうえで、チームでも闘えることがビジネスマンの評価に関わっている。ここでは、いまビジネスで求められる孤独力を多面的に研究していく。
孤独というと、「いつもひとりでいて寂しい人」というイメージが思い浮かぶ。「ひとりはよくない」という意識もあるだろう。しかし、孤独には二面性がある。英語では、社会との関係を断ち切られ寂しい状態を「ロンリネス」、本来の自分らしさを取り戻すためにあえて選ぶひとりの時間を「ソリテュード」と、状況に応じて使い分けている。
この日本人のマインドに欠けているソリテュードとは、果たしてどのようなものなのだろうか。
天才は直感で判断し行動する。
秀才は集めた情報から公式を考えて答を出す。
昔からそう言われるが、前例を踏襲するだけでは生き残れない今のビジネス環境においては、経営者ならずとも“天才型”のビジネスマンになることがサバイバルの鍵を握っている。
昨今の企業人事の世界でも、クリエイティビティのある人や自分で考えて行動する「自律型人材」が求められている。
確かに日産のカルロス・ゴーン社長やプレステの生みの親でソニーの次期社長と目されている久夛良木健氏などは、直感力があり、自律型人材と呼ぶに相応しい。この2人に共通するのは、自分の信念を貫き、自らリスクを負って決断する行動力といえるだろう。
このような能力は教科書や本を読んで理論を学んでも身につくものではない。しかし、生まれつきのものと諦めるのも早い。
「“孤独力”を身につければ、直感力や決断力のある人になれる」と言う人がいる。経営コンサルタントにして『孤独力(ソリテュード・パワー)』の著者である津田和壽澄さんだ。
“孤独な人”というと、引きこもり状態の青年や人と付き合えずいつも独りでいる人、寂しがり屋の人など、マイナスのイメージが着きまとう。
ビジネスシーンにおいても、孤独な人は仕事もうまくいかないというイメージがある。現実では、社内外にも多くの協力者がいる人が、大きな成果を出しているようにみえる。
やはり、孤独であってはいけないのではないか。しかし、津田さんは「孤独には2つのパターン」があることを強調する。
「ひとつは“ロンリネス”。これは群れから切り離された、上司に怒られた、恋人を失ったなど喪失感からくる寂しさに打ちひしがれている孤独です。そして、もうひとつは“ソリテュード”。これは、孤独が自分を明るくする、活性化させるという喜びを知り、あえてひとりでいる時間を作ることをいいます。つまり、積極的な孤独です」
要するに、孤独には消極的孤独と積極的孤独があるのだ。それは仲間が多いかどうかでは分からない。よく異業種交流会に参加しまくるひとがいる。それは知り合いが少ないという孤独感や不安を払拭することが動機だったりする。
一方、日頃ひとりでいることが多い人でも、孤独感がないばかりか、むしろ内面では楽しんでいる人がいる。このタイプこそが、津田さんのいう直感力や決断力に結びつくソリテュードの人なのだ。
ロンリネスの人 |
---|
社会、集団、人間関係の群れから切り離されるのではないかという不安感を抱き、過剰に人と付き合おうとしている人。あるいは実際に切り離された状態になり、寂しい、孤独だという感情に包まれている人。基本的に人は、誰かに過剰の期待をし、その期待が少しでも満たされなかったときに、たまらない寂しさや孤独感を感じる。 |
ソリテュードの人 |
---|
集団の中にいても、ひとりでいても孤独感を感じない人。むしろ、ひとりで何もしないでいる時間に積極的な意味や喜びを見いだし、意図的にひとり時間をつくっている。ひとり時間を持つことの効用には、考える力がつく、勇気・決断力を与える、心身を癒す、自己バランスを取り戻す、ストレスフリーの人間関係を生むなどがある。 |
今、30代ビジネスマンの多くは、成果が問われる中で労働時間が増え、またネットやメールによるコミュニケーションの時間も増えている。家に帰っても、資格取得の勉強や家族と一緒の時間ばかりという人も多いだろう。仕事や人付き合いに追われ、沈思黙考するような時間を作っている人は少ないのではないだろうか。そこで津田さんは、「まずは質のいい『ひとり時間』を持つこと」を勧める。
「たとえば、1人で夕日を見ながらボ〜とする、美術館に行く、美味しいコーヒーを飲みながら自分のことを考える。ランチの時間に公園を散策するなど。このような質のいいひとり時間を持つことで、孤独が内面を活性化する力を実感することができるのです。」
日産のゴーン社長は、毎朝6時半に出社し、今日の仕事の優先順位をつけることなどを考えているという。
しかし、実際のビジネスシーンでは、ひとり時間を増やすと“人間嫌いの変な人”と相手にされなくなってしまう可能性が高い。では、どうすればうまくひとり時間を確保できるのだろうか?
「“任せてください。やっておきます”“なにか手伝いましょうか”と、上司に日ごろから話しかけ、能動的に動く事です。すると、朝早くひとりでいても、“任せた仕事をやってくれている”と勝手に思ってもらえます。また、何気なく上司に自分のやりたいことなどを話すことで、仕事のイニシアティブがとれてひとり時間を増やせます」
たとえば、上司と一緒に出張に行きたくなかったら「先に行って準備しておきます」と言えば、評価とひとり行動が両得できる。工夫次第で、ひとり時間をつくることは可能だ。
30代社員のリストラも現実的になった今、サバイバルしていくためには人に流されず、人に頼らず、考える力を高めて成果を出す事が求められる。しかし一方で、実力があってもひとりで孤独に闘っているだけでは大きな成果を生むことは難しい。
大きな成果を生む人には、自分で考えて行動しながらもチームプレーや集団行動ができるという特徴がある。
そんな人になるために、まずはひとり時間を少しでも多くつくり、孤独力(ソリテュード・パワー)を磨いていくことが効果的なのだ。
by @kazumiryu