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孤独なリーダー達へ

ソリテュードが経営力をはぐくむ

道経塾 No.62 2009年9月掲載

【取材こぼれ話】

道経塾 No.62 2009年9月 表紙

道経塾より「リーダーの条件」という特集での執筆依頼があった。私がそれを語るなどおこがましい限りである。しかしソリテュード研究家としては、ひとりの時空間を意識することによる効用が良いリーダーを育むということについては確信がある。経営者であれば、勇気や決断がそこから生まれることは直感的かつ体験的に知っているはずである。

それを整理して学問的な裏付けで執筆することには、意義があると考えお引き受けした次第だ。限られた紙面で、推敲を重ねエッセンスを伝えるという作業はチャレンジングでもあった。

【本日のきもの】

小紋の単衣(ひとえ): ベージュ地に数種類の色目がはいった大島紬。母が着ていた品を仕立て直した。

強いリーダーシップを求められる者にとり、「孤独」は常に身近な存在である。あなたは、それを親しき友としているか、あるいは避けたいと願っているのだろうか。

そこで、まず「孤独」と聞いたとき、何をイメージするか自問してほしい。例えば、それは社会との関係性を断ち切られ、つらく暗い寂さびしさに満ちた状態なのか。多くの人に囲まれた中、ふと足元から寒さが這はい上がるような瞬間か。それとも考えが上手く伝わらないもどかしさの中に孤独の顔を見るのであろうか。あるいは早朝の森しん閑かんとしたオフィスで、内なる声に耳を傾けるひと時に孤独は微笑むのだろうか。

そもそも「孤独」とは中国の「鰥かん寡か孤こ独どく」という言葉が短縮されたものだという。それは「ひとりきりで哀しい」という状態を表す四字が集まったもの。ゆえにその言葉に「できれば避けたい」という感情が付随するのは当然である。本来、孤独とは「ひとりである状態」を指す。日本では古来、そのような状態は「道」を究めるときには必要な時空間とされた。よってその有用性は我々のDNAの記憶にあると言えるだろう。ただ、戦後急速な高度成長において、一丸となって目的へ邁まい進しんする「群れ」パワーが必要とされた社会構造において、我々は「ひとりの時間」の効用へ意識をあまり向けなかったのだ。

ロンリネスとソリテュード

しかし、二十一世紀の経営者およびリーダーシップを発揮する者にとり「ひとりの時間」の効用を理解せずには、もはやビジネスの成功も、意味のある人間関係も築けないと言っても過言ではない。その理由を「孤独」の持つ二面性のうち、人を成熟させる孤独の側面に焦点を当てて述べたい。

私は孤独の研究を進める中、その二面性を明確に区別する必要を感じた。そこで冒頭に述べた「できれば避けたい」孤独感を内包するものをロンリネス(消極的孤独)、一方、内奥から溢れるような精妙な喜びを持つ孤独をソリテュード(積極的孤独)と名付けた。

ソリテュードは、経営者に限らず誰もがその効用を経験している。「あの感覚がソリテュードだったのだ」と経験を名付け、再認識することによりソリテュードは活性化され、我々のQOL(生活の質)は高められる。その結果、例えば日々のストレスは軽減され、経験知と直感が瞬時に結びつき経営力は自然に強化される。

ソリテュードの醍醐味は些細いな中においても実感できる。多忙な一日、オフィスあるいはバスルームでひとりになり、ほっとした瞬間に自分軸がしっかりと整う感覚。決断に迫られたとき、ひとりになる時間を意図的に増やすことにより最適な答えが見つかった経験。いっとき人から離れてみる、すると前よりも余裕を持って部下の話に耳を傾けることができた自信。創造の源から生まれたソリテュードの効用はほかにも多数ある。

積極的孤独は価値ある資質

そのようなソリテュード(ひとりの時間)の効用とは、ひとりでいることを怖がらない強い精神の人間だけが享受できたり、そのための努力や訓練が必要だったりするものなのであろうか。それを説明するには、イギリスの精神分析学者D・W・ウィニコットが一九五七年の学会で行った発表に遡のぼりたい。彼は「一人でいられる能力は高度に知的加工の加えられた現象で、そこには多くの貢献的な要因が潜んでいる」として、情緒的成熟と密接に関連していることを主張した。人は誰でも「ひとりの時間」の効用を享受することができるのである。孤独を避けることなく戦術的にその時間を持つことは、いまだ言葉にならない思いや行動には至らない情熱がゆっくりと発酵するインキュベーター(孵化器)を自身の中に提供することにほかならない。

イギリスの精神療法家A・ストーはこう言う。「独りでいられる能力は、精神的態度の変化が必要となったとき、価値のある資質である」(『孤独』創元社)と。これこそ、リーダーが求められる資質ではないだろうか。なぜなら真に優れた決断、思考、経営力はそのような中からのみ生まれいずるからである。

道経塾 No.62 2009年9月 紙面 by @kazumiryu

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