前回は、慣れ親しんできた「孤独」という言葉にはロンリネス/消極的孤独とソリテュード/積極的孤独という
相反する2つの顔があることをお話しました。
それは心が強いとか弱いからということとは関係ないのです。
幼少期より誰もが体験してきた孤独の多くは、「ひとりぼっち」という状態からの感情ではないでしょうか。それは「ともだちが居なくて寂しい」から始まり「年末年始がひとりだなんて、どうしよう。悲しい」「会社の人間関係がうまくいかずに、寂しい」「誰もわたしの話をきいてくれない!」という気持ち。心理学では「孤独感」と呼びます。
つまり自分が相手に期待することが満たされないことからわき上がってくる、さびしさのことです。あくまでも相手を意識してわき起こる感情であり主観的なものがロンリネスです。
一方、ひとりで見た風景からふとした思いがわき、それが過去のなつかしいものに繋がる。その結果、ゆったりと本来の自分に癒され本来の自分に立ち戻り勇気がわく。対人関係に疲れ、湯船につかった時に感じる安堵から心身が整っていく。大勢との議論よりもしんと静まりかえった時空間にひとりでいた瞬間、決断ができる。瞑想中にすべてに抱きしめられているような全宇宙的一体感を覚える。熱い恋のまっただ中でも、相手から少し離れてみるとしみじみ愛おしさを感じさらに絆が深まる。このようなソリテュードの効用を実感する時、心の向かう相手は自分自身の内面となります。
このように、整理してみると、ロンリネスとソリテュードは大変似通っていますが、異なる体験であることが分かると想います。
ソリテュードについて、さらにお話をすすめましょう。
それは生きることに光と自信を与え、しばしば新しい道筋を生み出すインキュベータ―(揺籃器)の働きをし、解放をもたらします。ソリテュードのなかにこそ、自分の魂が発酵する時間が流れ、じっと耳を傾けると内なる静寂の声が聞こえてくるのです。現実の生活にあらわれる事象だけではなく、心のどこか深いところでそれを生み出している精妙な落ち着きに気がつくと、それは輝かしく幸福感に満たされる瞬間となります。そのように自ら選び取った「ひとりの時間」から様々な決断が生まれることも多々有ります。
このようなソリテュード体験を、100歳を超えた今でも、現役で活躍している医師、日野原重明さんは、かつてこう語っています。
「何のために仕事を選ぶのか。(中略)それでも迷った時は、森や林の中に入って考えるのです。大きな自然の宇宙を感じながら、小さい自己を見つめ直すのです。そんな作業が、生きていく上で大切だと思うのです。」
都会生活では日野原さんが体験されたような森や林は身近にはないかもしれません。しかし、自ら選んだ「ひとりの時間」を心の森や林として、そこに自然や宇宙を感じ、自己を見つめ直す事はできるのではないでしょうか。
あなたは、ひとりの時間の効用を活かすため無理に強く在る必要はありません。
まして人づきあいを避け、こもる必要もありません。
ただ、ほんの数分でよいのです。自分自身の60兆の細胞に「ひとりで過ごすこの時間はソリテュードを活性化させるため」と伝えるだけで、もともと備わっている能力のスイッチが入り、その効用を実感できます。
なぜならば人は「ひとりでいられる能力」を持って生まれてきているのです(D.W.ウィニコット.1958年)。生まれたての赤ん坊でさえ、四六時中刺激を与えられているよりも、ひとりでいる時間が与える事により脳の発達に良いという研究も米国でされています。そして、米国のカウンセラー/著述家のJ.J.ドランテルが言うようにソリテュードの力を活用するには「一定期間規則的に練習する必要がある」のです。
あなたの周りに居る人たちをもっと好きになるように、そして社会と意味あるつながりを深めるためにも、ちょっとだけ「ひとりの時間」を意識してみませんか?
次回は、ネット社会の中でのソリテュードの意義についてのお話です。
12月18日(火)21:00〜21:50 ニッポン放送1242AMラジオ AGES〜エイジスに、
ソリテュード研究家としてゲスト出演いたします。