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ペットを看取るということ 天国の犬からの宿題

第8話:本当に安全なペットフードとは?

日経ビジネスオンライン
2009年7月8日掲載

【執筆こぼれ話】

現在、凜に与えているドライフード
現在、凜に与えているドライフード

「良いフード」は「良い獣医師」探しと同じほど、オーナー(飼い主)の姿勢や好みが問われる点であろう。特にフードに関しては、現代ではワン・クリックするだけでドライ、ウェット(缶)、トリーツ(おやつ)、サプリメントなどに関する情報が溢れんばかりに出てくる。

「食育」「地産地消」「オーガニック」などがキーワードとなる人間社会においても口に入れる品への関心は高い。よって家族となったコンパニオン・アニマル達へも同様なのである。しかし、ペットフードといわれる品にはまだまだ安全といえないものが多くある。
ピピの病気を通して食の重要性と玉石混交のフード現状を実感した。

凜を迎えるにあたっては、まずフード選びを徹底させた。そこで成分検査を第三者機関で受け、情報開示している会社を選ぶことを最低限の条件として、現在選んだフードが写真の品である。

今後、試行錯誤しながら進んでゆく道なのであろうが、研究熱心な消費者からの底あげも含め、フード(特に缶づめ)に関しては、良心的で高品質の品が出てくることを願うばかりである。

梅雨明けと夏本番のはざまの7月。人もコンパニオン・アニマルも、食欲が乱れがちな時期である。今回は「食」について考えてみたい。

ヨークシャー・テリアのピピとの生活で、絆が強まるにつけ「1日でも長く、この子と一緒にいたい」「最後のその時まで、健康でいてほしい」と願うようになる。そう思うと、急に様々な情報が気になり始める。健康に良いと知ったフード、おやつなども、いろいろと試してみたくなる。しかし調べ始めてみると誰もが、ドッグフードやキャットフードの種類の多さに圧倒され、選択の迷路に踏み込んでしまう。

「人の残したご飯に味噌汁をかけて食べさせる」という食事は、今となっては、はるか昔のことだ。

インターネットを駆使すれば海外情報も容易に手に入り、平行輸入で“最高のドッグフード、キャットフード”を取り寄せることもできる。第5話「ペットに10万かける女たち」で紹介したオーナーたちほどではないにせよ、自分の食事は手抜きしても、コンパニオン・アニマルには少しでも健康によいものを与えたいと思うオーナーは、私だけではないのでは?

今日、犬用も猫用も、数えきれないほどのドライフードやウェットフードが販売されている。動物用のサプリメントもある。およそ人間用のサプリメントのほとんどはペット用にもある、と言っていい。

点滴を受けて食欲が復活した時のピピ
点滴を受けて食欲が復活した時のピピ

フードにオーガニック素材を使うのは自然な流れであり、さらに高級食材による手作りやオーダーメード手作りフードのデリバリー、ローフード(生肉など)など、情報は溢れかえっている。心あるオーナーであればあるほど慎重にもなり、どれを選ぶべきか迷いも深刻である。

その一方で近年、アレルギーを持つ犬・猫が増えているという。フードの素材や製造方法は、コンパニオン・アニマルのQOL(生活の質)に関わってくるのだろう。

人間だけでなく、コンパニオン・アニマルの世界でも、食の安全が重視され、フードで悩むオーナーが増えていることを受け、今年6月1日「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)」が施行された。

その背景には、2007年米国で、中国産の原材料に有害物質(メラミン)が混入したフードが原因で、多数の犬や猫が死亡したことがあり、農林水産省と環境省が合同で研究会を設置し、この法律が生まれた。

やっとできた、ペットフード安全法

ペットフード安全法により、国が定めた基準や規定に合わないフードの輸入、製造、販売を禁止することができ、2010年12月以降に販売される犬・猫用ペットフードには、名称、原材料、賞味期限、製造業者等の名称または住所、原産国名の表記が義務づけられる。

違反した法人には最高1億円の罰金、法人代表者には懲役1年以下、罰金100万円以下が科せられるという。この法律の概要について、『愛犬の友』2009年7月号から抜粋すると、次のようになる。

  1. ペットフードの基準、規格の設定
  2. 有害な物質を含むペットフードの輸入、製造、販売の禁止(平成21年12月より)
  3. 有害な物質などが混入したペットフードが流通するなどした場合の廃棄、回収などの必要な措置の命令
  4. 輸入業者、製造業者の届出の義務づけ
  5. 輸入、製造、販売の記録を残すため、帳簿の備えつけの義務づけ
  6. 問題が起きた場合などにペットフード清掃業者などからの報告徴収、立入検査など

私はこの内容を知り、「むしろこれまで、そのようなことがなされていなかったのか」という驚きを持った。

長年のフード研究、販売を通じ、健やかな犬の生活をサポートしている「DOG WISH」代表の栗原隆裕さんによると、このような法律だけでは、まだまだ安心してフードを購入できないと言う。そこで栗原さんに、安心できるフード選びのコツを尋ねると、明確な回答が返ってきた。

「メーカーもそうですが、売る側の責任として小売店が自ら、第3者機関に分析試験成績書を依頼し証明書として公表している製品があります。こういったフードなら、安心です」と栗原さんは言う。

「こういう会社は、現在では4社しかありませんが、消費者の皆さんが販売元のウェブサイトを見たり、電話で尋ねるなどして、成績証明書を確認するといいですよ。そういうオーナーが増えるのも、大切なことです。製品によっては、オーガニックを謳っていても、実は農薬を使っていたり、保存料や添加物不使用と書いてあるのに使用していたり…ということもあるのです」

これが、フードの分析試験成績書
これが、フードの分析試験成績書

これが、フードの分析試験成績書

「では、フードは手作りするのがベストなのでしょうか?」と私。

「いや、やはり良質のドライフードで通すのがよいでしょう。手作りは手間も時間もかかりますが、栄養素のバランスがなかなかうまくいかない。ではサプリメントを加えればいいかというと、やはり保存料や添加物などの問題が出てくるのです。それに私は、今はこの4社をお勧めしていますが、これからペットフードは、コンビニ弁当のように進化し、もっとよくなっていくと考えています」

この話を聞いて、私は少し明るい気持ちになった。「でも、同じフードを食べ続けていると、飽きたりしませんか?」

「それは、問題が違いますよ。小さい頃から(コンパニオン・アニマルに)人間の食べ物を食べさせない、もらってはいけない、というしつけをしていますか。それから食いつきが悪くなった時に、その理由をきちんと考えていますか? 食べなくなったからと、すぐに別のフードに変えたり、おやつを与えたり、人間の食べ物を食べさせたりしていませんか?」と栗原さんは言う。

「例えば子犬が急に食欲を落とす時期があります。メスなら6〜7カ月、オスなら7〜9カ月の頃です。これは、著しい成長が止まり、子犬から大人に移行する時期にあたります。こんな時は、2週間くらいすると食べるようになりますから、焦らずにまずじっくりと犬や猫の様子や時期を考えてみるんです」

これは、まさにオーナーがしつけられるべきこと(第4話:「ダメ飼い主はいても、ダメ犬はいない。犬に“しつけられた”私」の1つなのかもしれない。

記憶をたどれば、12年前の7月12日にピピは家族となり(第2話:愛犬との運命の出会い。それは心が折れていたあの夏)、昨年の7月9日に突然ぱったりと食欲を失い、そして25日に腎臓の病気が悪化して最初の入院をした(第1話:愛犬の病、そして死を体験して)。

腎臓の病では、体内毒素を排出する機能が衰えてしまう。このため、治療方針の1つとして食事には大変に気を配ることとなる。今、その日々を振り返ると、私は寝ても覚めてもピピの「食事、水のイン(摂取)・アウト(排泄)」について考え研究し、叶わぬことと知りつつ治癒を願っていた。

食べられなくなるには、それだけの理由がある。しかし治療のため、体力をつくるために「食べる」ということは必須であった。

そこで、獣医師から処方された療法食のドライフード、ウェットフード(缶づめ)は数種類のサンプルを取り寄せてもらい、日替わりで試した。手作りフードなら食べるかもしれないと考え、犬用フードをオーダーメードで作ってくれる店に行き、血液検査結果を見せて1週間分をお願いした。

サプリメントもいろいろと試した。病気の後半にはリン、カリウムを抑えるということが優先順位として追加された。そこで人間用の『食品成分表2009』を読みつくし、それらの含有数値が低いものを調べ与えてみた。

さらに、低たんぱく質ということで、人間のたんぱく摂取制限患者用に作付けされた米を取り寄せて、手作りフードを作った日もある。ピピが水を飲まなくなってからは、イオン水素水、ペット用イオン水、水道水、砂糖水など、あの手この手で摂取できればと試み、尿の量を測っては一喜一憂していた。

一方、動物は自力で食べなくなったら、それが肉体を捨てる時と理解し、私のエゴで無理に命を引き伸ばすことは辞めよう、と覚悟し自分に言い聞かせていた。

しかしその時のピピの姿は、異常に悪い数値とは裏腹に穏やかなエネルギーに満ちていた。その姿を見るにつけ私は励まされ、凜とした姿から「あるがままに、居ること」など、多くの気づきがあったのだ。

前出の栗原さんによると、摂取するフードによって病気になる場合もあるが、持って生まれた体質で病気にかかることもあると言う。コンパニオン・アニマルと「運命的な出会い」をしたオーナーにとっては、遺伝的な疾患を持っていたのか、病気になりやすい体質だったのか、などは知るよしもない。

しかし、家族となったもの言わぬコンパニオン・アニマルの健やかな成長のためのフード選び、そして良質なフードの流通のために、私たちができることはまだまだありそうである。

by @kazumiryu

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