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2010年4月30日掲載

スーパー・ドッグ?
それとも強い絆のスーパー・ボンド?

犬のルーツについては過去様々な議論がなされてきたが、昨今では中型のオオカミということが大勢を占めていると言う。ミトコンドリア レベルの骨の組成は犬とオオカミでは0.2%しか違いがないという点でも明らかだそうである。

考古学者によると犬は、30,000年以上前には人類の住居の周りで暮らしていたという。その後、犬を飼い慣らし始めたのは15,000年から12,000年前だろうと考えられている。発掘調査により犬と人が同じ場所に埋葬されている発見を考えても、我々とコンパニオン・アニマル(伴侶動物)への愛情のありようは根源のところで古代も現代も共通ではないかと感じる。

現在、世界には非公認もを含め1,000種類以上の犬の種類がある。今回は犬のスーパー・パワーについて少しみてみよう(『JFK Gazette 2010.May』参照)。

データでみる“犬の能力”1

「犬は優れた能力を持つ動物」といっても、具体的にどうすごいのか今ひとつピンとこない、という人も多いのでは?
そこでこのコーナーでは、犬の能力のすごさをデータから検証してみました。

感覚器編

まずは犬の五体をつかさどる感覚器のそれぞれの能力をデータから覗いてみましょう。

Power1 聴覚

犬の場合、嗅覚ばかりが注目されがちですが、聴力もかなりのもの。聞き取ることのできる最大周波数はイルカなどには劣るものの、人間の6倍以上の周波数を聞くことが可能です。下の表を見ると、一般的にペットとして飼われている動物のなかではずば抜けた聴覚を持っていることがわかります。訓練などで使われる犬笛はこの犬の特性を利用したもの。人には聞こえなくても、犬には聞こえる周波数の音を出して、訓練の指示として使用しているというわけです。

表1 主な動物の聴力
最大周波数(kHz)
135
セキセイインコ 14
47
人間 21
イルカ 200

(出典「数値でみる生物学」(シュブリンガージャパン)、Berndt and Meise 1959,Bertelsmann 1979, Grzimek 1970,Kastner 1973,Meyer 1964,Niethammer 1979,Pemzlin 1970,Stukie 1976)

Power2 視覚

以前は、犬は嗅覚や聴覚は発達しているかわりに視覚は良くなく、色も識別できないといわれていました。しかし、最近の研究では犬の色覚は3原色を識別できる程度に発達していることが確認されています。また、犬は近眼といわれますが、牧羊犬や視覚ハウンド系の犬種ではかなり遠方の人や動物を識別できるともいわれています。ただし、明るい場所よりもやや暗い場所のほうが見えやすいそうです。

犬が飼い主さんの姿を遠くから見つけて駆け寄ってくる、というような時には、単に臭いや声などで見つけているのではなく、視覚も使って確認しているのかもしれません。

Power3 嗅覚

「犬の嗅覚は優れている」とはよくいわれることですが、この嗅覚をつかさどる器官、嗅上皮の表面積はほかの動物とで比較すると、非常に大きなことがわかります。また、臭いを感知する受容体の数も、人の鼻ではほとんど感じることができないわずかな臭いでも、犬にははっきりと嗅ぎ取れるのです。

でも、この能力を発揮する場が今の社会のなかではなかなかないのも事実。普段の遊びや散歩になかで臭いを嗅ぎ取らせる行為を取り入れてあげれば、犬にとってはもっと楽しくなるはずです。

表2 主な動物の嗅上皮の面積と受容体数
表面積(cm2 受容体数(個)
85 2.3×108
20.8  
人間 2.5〜5 3×107
ウサギ 9.8 1×108

(出典「数値でみる生物学」(シュブリンガージャパン)、Starck 1975)

Power4 味覚

味覚をつかさどる味蕾の数を比較すると、人間と比べて犬は1/5程度の数しか味蕾がありません。つまり、味に関しては、そこまで鋭くないということ。とはいえ、あくまでも「人間と比べて」ということであり、甘味、塩味、酸味、苦み、旨味をきちんと認識はしているといわれています。ただし、どの味が好みか、ということについては後天的に学習した部分も大きいといわれていて、生後6ヶ月くらまでにいろいろな味を体験させれば、それだけ好みも出てくるそうです。フードの好き嫌いをいう犬はある意味、人間の感覚に近くなっているのかもしれません。

表3 主な動物の味蕾の数
味蕾数(個)
1,706
コウモリ 800
473
ウシ 25,000
ニワトリ 24
人間 9,000

(出典「数値でみる生物学」(シュブリンガージャパン)、Sturkie 1976を改変)

データでみる“犬の能力”2

運動能力編

犬種によって偏りはあるものの、もともと犬の運動能力は使役犬として改良されてきたがゆえに、ずば抜けた記録が残っています。

Power5 走行速度

動物の走る速さは、個体差や記録時の条件でかなり差が出るため、記録の妥当性にはやや疑問が残りますが、いくつかの動物で、その走行速度が記録されています。犬の場合は、犬種による差はありますが、ドッグレースで使われているグレーハウンドの場合、驚くようなスピード記録が残されています。犬種によってはオオカミやコヨーテのようなサイズや体型の近い野生動物と比べても、瞬間的なスピードに関しては勝るとも劣らない能力を持っているといえます。とはいえ、あくまでもこれは一個体の記録であり、人と同じように犬にも足が速い、遅いには個体差があります。我が家の犬はどのくらいの速さで走るのか、一度ドッグランなどでストップウォッチを使って計ってみてもおもしろいのではないでしょうか。
※いきなり激しい運動をさせるとケガをすることがありますので、必ず準備運動を充分に行なって体を慣らしてからにしましょう。

表4 主な動物の最高速度
Km/時
グレーハウンド 110
アフリカゾウ 39
チーター 120
コヨーテ 60
48
人間(100m走) 36
ライオン 75
競走馬 69
アカカンガルー 80

(出典「数値でみる生物学」(シュブリンガージャパン)、Bauer et al. 1974,Berteismann 1979,Franz 1959,Grzimek 1970,Hanke et al. 1977,Heinroth 1955,Hertel 1963,Herzog 1968,Hesse and Doflein 1935,Kastenet 1973,Krumbiengel 1953,Lampeitl 1982,Mann 1979,Mossmann and Sarjeant 1983,Niethammer 1979,Schwerdtfeger 1975,Slijper 1967,Wood 1982,Wunderlich and Cloede 1977,Ziswiler 1976)

Power6 跳躍力

走行速度と同様に跳躍力の記録についても、いくつかの動物で記録が残っています。走行速度と同様、条件などの違いから単純比較はできませんが、ライオンやトラで体長の3倍程度、カンガルーで体長の6〜7倍程度の距離を跳ぶとされています。一方、犬の記録では、ギネスワールドレコーズには2006年にジャンプの高さでグレーハウンドが跳んだ172.7cmという記録が登録されています。また、アメリカなどで行なわれている、プールに設置された桟橋からジャンプさせて、その記録や高さを競う競技「エアードッグ」では、距離で24.1フィート(約7m57cm)、高さで6.1フィート(183cm)という記録が残されています。

表5 主な動物の跳躍力
m 体長との比
7.75 6〜7倍
ライオン 4〜5 2〜3倍
トラ 5 2〜3倍
キツネ 2.8 4.3倍
人間(陸上競技記録) 8.9 5倍
インパラ 10 6倍
カンガルー 6〜10 7倍
ノネズミ 0.7 8倍
テナガザル 12 13倍

(出典「数値でみる生物学」(シュブリンガージャパン)、Cochran 1970,Grzimek 1970,Hesse and Doflein 1935,Krumbiengel 1953)

Power7 学習能力

最近の研究では犬は5つの数字まで数え165語ほどの言葉を理解するという。

Power8 帰巣本能

(『JFK Gazette 2010.May』参照)

各データから改めてその能力の素晴らしさを知るとき、私の側で高々とジャンプし、機敏に走り回る(特に、禁止された品をくわえて逃げている時…)生後10ヶ月の凜にも、何か大きな隠された力があるのではないかと考えると楽しくなる。

しかし、そのような「スーパー・ドッグ」ぶりをみせる優れた能力もさることながら、オーナーとコンパニオン・ドッグの間に築かれる緊急時にオーナーを救うこともある「スーパー・ボンド」という絆にも注目したい。
例えば最近、米国アリゾナ州のこんな出来事を耳にした。火災が発生し、現場に向かう緊急車両が道に迷ったその時、一匹のシェパードが飛び出してきた。それは車を先導するかのように前を走り目的地である火事現場に到着した。そこには火事で大怪我を負ったオーナー男性がいたのである。このような奇跡と呼べる心暖まるエピソードは枚挙にいとまないが、これこそ我々がコンパニオン・アニマル達と育むことができるスーパー・ボンドなのである。

犬との強い絆を育んだ川端康成は「犬という動物は人間から愛されるために生き、人間を愛するために生きていると言ってもよいだろう」と記している。
「犬」を「猫」、「うさぎ」など愛する存在にかえた時、多くの人がしみじみと幸福感に包まれ実感する言葉である。

by @kazumiryu

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